現在の世界の食糧生産は、主に農薬・化学肥料を使用し、大規模・単一作物・大量生産による生産に依存しています。
現在世界ではアフリカを中心に約10億人に人々が飢餓に苦しんでいますが、この原因は世界の総生産量が不足しているのではなく、先進諸国の過剰消費と廃棄される食物、増大する畜産物の生産と過大な消費、富の偏在と流通機構の不備などが大きな原因と考えられております。
これらの問題は各々解決しなければならない課題ですが、一方現在の慣行農業を有機農業に転換すれば、世界の食糧生産量が減り、現在以上に困難な状況になるのではないか?有機農業は世界の60億人強の食糧を賄えるのか?と言う疑問が長い間議論されてきました。
有機農業は環境に良さそうだが、その生産力は非有機生産(現在世界の主流である化学肥料や農薬を使った慣行生産)より劣るのかどうかについては、長年に亘り様々な研究がされてきました。
有機農業の生産性と慣行農業の生産性の比較は、世界の食糧問題を考える上で、大変重要な課題と考えます。
この文献紹介コラムの先ず始めとして、私達JONAが推進している有機農業の社会的意義のうち、有機農業の生産性に関する論文を紹介いたします。
【1】有機農業は世界の食糧を賄うことができるか?UC, Berkeley(カリフォルニア大学バークレイ校)のヴァシリキオティス(Christos Vasilikiotis)博士は、これまでの幾つかの研究成果を総括し、発表しています。
その中から、有機農業は慣行(非有機)農業より生産性が高く、有機への転換こそ農産物生産の維持、増産に資することを論じた部分を紹介します。
博士が引用した研究は次の通りです。
■UC, Davis(カリフォルニア大学デービス校)の研究最初の8年間では、全ての栽培物で有機生産は慣行生産に匹敵し、トマト、ひまわり、とうもろこし、豆では有機がより多い収穫量であった。
その土壌中の炭素量と貯蔵された栄養成分は多く、長期的に肥沃度を維持するためには重要なことである。
■ローデール研究所の大豆の研究1981年に開始した農業システムの試験では、大豆と、とうもろこしを有機と非有機で栽培し比較した。
有機農業の生産性は慣行農業と同じくらい。
但し、1999年の水不足の時には、有機は慣行の倍近くを収穫した。有機の土壌は水分を多く保持し、有機質も高い。
■その他、英国Rothamsted試験場のBroadbalk実験場、中西部6大学の有機穀物と大豆生産の報告が書かれている。
以上の考察の結果、有機農業は害虫による損失や収穫の劇的な減少をもたらさないことは明白である。
従来農業産業やアカデミックは、有機は収量が減じると我々に信じさせようとしていたが、化学合成された農薬なしに収量の損失を防ぐことが出来ること、有機的、農業環境維持的農業は継続的に土壌の肥沃度を増加させ又表土の流出を防ぐが、慣行農業はその反対の影響を及ぼす。
有機農業への転換だけが農産物生産を維持し、また、増加させることが出来るでしょう。
結論として、博士は「今や、有機対慣行農業の比較は不要であり、有機農業方法を改善するための研究を直ぐにでも行うべき」と論じています。
なお、この論文には、小規模農家の役割、有機農業の収益力、有機農業の補助金制度、GMO農業の失敗などが論じられている。
出典:Can Organic Farming “Feed the World?”
著者:Christos Vasilikiotis; UC Berkeley
【2】緑の革命の再生―The greening of the green revolution
ミネソタ大学デヴィッド・ティルマン著「従来型の集約農法と比較したとき、「有機」農法には、土壌の肥沃度を高め、環境へ与える害も小さいと言う長所がある。問題は収量だが、今回、有機農法によっても、集約農法にひけをとらないだけの収量が可能であることが分かった。」ことを英国の科学誌のNature(ネイチャー誌)に発表した。
ドリンクウオーター氏達の3つの実験結果の総括報告であり、収量比較、窒素量、土壌中の炭素量などについての考察が記されている。
この論文の日本語訳は、「知の創造―ネイチャーで見る科学の世界」の53~56頁(出版社;徳間書店)に記載されている。
この1999年版は、Natureが選んだnews & Viewsの翻訳で1999年10月に初版出版されている。科学一般、バイオテクノロジー・医学、生物、生物の進化について1998年のNatureから選ばれており、科学の最前線について知りたいと思う人々のために翻訳されたと責任翻訳の竹内薫氏による、あとがきに書かれている。
【3】UNCTADスパチャイ事務局長のスピーチITF会議(ジュネーブ)国連関連諸機関高官出席の公開会議2008年10月にてITF会議(有機農業の国際的調和と同等性を確立するための国際的な作業部会)で、UNCTAD(UN Conference on Trade and Development国連貿易開発会議)の事務局長は、世界は有機農業生産に注目しなければならないと話した。
IAASTD(The International Assessment of Agricultural Knowledge, Science and Technology for Development)の2008年春の報告の有機農業の環境評価や生産力評価に基づいた提言であった。
スパチャイ氏のスピーチ;翻訳 三好智子、監修JONA
「世界の農業生産方法は過去数十年間どちらかと言うと無視されてきました。
しかしこの会議は、農業生産方法が国際的な様々な政策討議の中心課題になってきた大切な時期に開催されています。
ここ数ヶ月間の食糧価格の高騰により、発展途上国での悲惨な農業の状態に注目が集まりました。そこでは高価格に対応して農業生産を増加させることが出来ませんでした。
数年に亘る農業投資の減少、不十分な農業支援や先進国からの食糧援助の減少などにより、発展余剰国特にアフリカなどの国の農業を弱体化させました。
更に石油価格高騰により化学肥料や化学資材の費用が上がり、状況を悪化させています。
今年初め、IAASTD(開発のための農業の知見・科学・技術の国際的評価委員会)は、社会の崩壊や環境破壊を避けながら、世界が人口増加や気候変動に対応して、貧困や飢餓を乗り越えていくためには、農業のあり方を劇的に変える必要があると結論づけました。
私たちは有機農業がこれらの問題を解決する最良の選択であると確信しています。」P24-26有機JAS認証の検査・判定の実際