■カナダ・バンクーバーの街角で見かけたオーガニックの風景
バンクーバーを出張で訪れた際に見かけた「気になる風景」の1つが、下の写真にある「Whole Foods Market」の風景であった。Whole Foods Marketは普通の大規模スーパーマーケットに見えるが、最近の北米で人気のオーガニック製品専門のショッピングセンターである。それは、郊外の交通条件の良好な幹線道路沿いに立地し、「オーガニック」や「ナチュラルフーズ」という派手な看板はないが、多くの顧客がそこを訪れている。有機JASの業務に関わる者の職業病かもしれないが、「オーガニック」や「ナチュラルフーズ」の専門店という言葉に惹かれて、このショッピングセンターに入ってみることにした。規模的にも施設的にも日本の郊外ショッピングセンターとあまり変わらないが、北米のモータリゼーションの発達を反映して、比較的広い駐車場が完備されている。

[バンクーバー郊外に立地する「オーガニック製品」専門のショッピングセンター(2008年9月撮影)]
店舗に入って驚いたことは、店内で扱っているすべての商品が本当にオーガニックのものだったことである。当然のことながら、食品や加工食品がオーガニックのものであることは珍しくなく、それらが整然と陳列された光景は日本のオーガニックを扱う小売店で見かけるものと変わりない。しかし、衣類やハウスケア製品、文具類、化粧品などもオーガニック製品であった。オーガニックコットンでつくられた下着や衣類は肌に優しく、アレルギーなどの問題を抱えている人々には最適だという。また、ノートや鉛筆、消しゴムもオーガニック製品であり、すぐには何がオーガニックなの理解できなかったが、安全で安心な文具を子供に提供することが主要なコンセプトだという。同様に、おもちゃ売場での積み木も興味深い商品で、赤ちゃんが口に入れても安全で安心なように、天然素材の木材を使用して、ニスやラッカーを全く施してはなかった。加えて、軽食コーナー(フードコート)で提供される食事もオーガニックであった。
以上に述べてきたものを含めたすべての商品に共通することだが、個々の商品の価格は一般品とほとんど変わらず、顧客の多くは価格を全く気にすることなく、オーガニック製品を購入している。Whole Foods Marketは商品の安全・安心をセールスポイントにしていることはもちろんのこと、価格面でも一般の店舗と十分に競争できる店舗として位置づけられている。つまり、Whole Foods Marketはオーガニック製品が誰でも気軽に商品選択の意思決定できる店舗の1つとして存在しており、決して特別な人の商品選択の場でないことを示している。そして、Whole Foods Marketの風景に象徴されるようなオーガニック製品の普及が日本でも可能になるように、私たちは努力しなければならないだろう。
ちなみに、Whole Foods Marketは大学を中退した二人の若者によってアメリカ・テキサス州オースティンで1980年に設立され、当初はオーガニック製品やナチュラルフーズを販売する小売り店舗であった。その後、店舗を拡大してスーパーマーケットとしての営業を開始し、1990年以降、総合的なショッピングセンターとして北米で事業展開するようになった。2009年現在、Whole Foods Marketはアメリカの23州とカナダ・ブリティッシュコロンビア州で109カ所に立地している(バンクーバー郊外では6カ所に立地している。経営者の回想録によれば、Whole Foods Marketが北米で成功した秘訣は、オーガニック製品やナチュラルフーズを売らなかったことだそうである。彼らが販売したのは、安全・安心な生活であり、オーガニックでナチュラルな生活スタイルやファッションであった。そのため、Whole Foods Marketはオルターナティブな生活スタイルやファッションをオーガニック製品を通じて常に提案している。昨年の秋、北米の流行ファッションの1つにWhole Foods Marketのエコバックがあった(現在も流行しているようだ)。そういえば、Whole Foods Marketのエコバックにパンや野菜を詰めて家路を急ぐ人々の姿を多く見かけた気がする。
(菊地俊夫 JONA判定委員長・首都大学東京教授)

■菊地俊夫氏 プロフィール
- 1955年栃木県生まれ。
- 筑波大学大学院地球科学研究科修了、理学博士。
- 群馬大学教育学部助教授、東京都立大学理学部助教授を経て現職。
- その間、オークランド大学とシドニー大学で客員教授を、中国科学院地理研究所で客員研究員を務める。
- 専門は農業・農村地理学、自然ツーリズム学。
- 主な著書は、「日本の酪農地域」(大明堂)、「持続的農村システムの地域的条件」(農林統計協会)、「日本農業の維持システム」(農林統計出版)、「観光を学ぶ」(二宮書店など多数。
- 現在、大学では都市環境科学研究科観光科学域長と自然・文化ツーリズムコース長を務め、大学院の教育・研究を主に担当している。地理学や地域生態学の講義・演習・実習を通じて、農業・農村の持続性や農村空間の商品化、および環境のキャリング・キャパシティなどを大学院生に教えている。
- JONAの判定委員は2000年4月から務め、2006年からは判定委員会委員長となる。

■JONA事務局より…判定委員会&判定委員とは…
- JONAでは1ヶ月に2~3回程度、判定委員会を開催しています。そこでは、認定申請者の申請書、検査員の報告書をもとに、JONAのオーガニック基準、有機JAS規格、技術的基準に適合するかどうかを判定しています。
- 判定委員会は農業・食品・流通等に関する実務経験がある専門家、学識経験者、ISOの審査員など、経験豊かな判定委員により構成され、JONAの認証システムの一翼を担っています。
2009 年 12 月 8 日 8:25 | カテゴリー:有機の現場から